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月刊 経団連 巻頭言 地方創生に想う

古賀信行 (こが のぶゆき) 経団連副会長/野村證券会長

福岡県大牟田市は、私が生まれ育った街である。かつて大牟田は三池炭鉱を中心に「炭鉱のまち」として栄え、20万人を超える人が暮らす地方中核都市であった。しかし、時代は移り、炭鉱も閉山し、私の故郷はすっかり寂れてしまった。現在の人口は12万人を割り、かつての約半分の人口規模となっている。故郷を想うと寂しくなるが、これが現実である。

大牟田の活性化を議論すると、「再び炭都としての輝きを」と過去への回帰を叫ぶ人が多い。果たしてこれは正しい方向性なのだろうか。社会環境が刻々と変化し続ける現代において、繁栄したかつての姿の復活や再現には限界がある。

今年7月、大牟田が「明治日本の産業革命遺産」の一部として世界遺産に登録された。喜ばしいことである。これを受けて、「大牟田のシンボルが世界的に認知された、再び石炭中心の街づくりを」と原点回帰を訴える声が勢いを増すかもしれない。しかし、三池炭鉱の「歴史的価値」が認められただけである。登録を契機に、石炭の需要が復活するわけでも、炭鉱見学希望者が門前市を成すわけでもない。

ある日、ふとテレビを見ていたら大牟田が特集されていた。大牟田は「安心して徘徊できる町」を目指すという。65歳以上の高齢者の総人口に占める割合がすでに三分の一超と、高齢化が著しく進行する大牟田が、認知症への理解を深め、地域全体で支え合う仕組みを構築し、誰もが安心して住みやすい街を目指すというではないか。素晴らしい取り組みである。私も「時が来たら大牟田へ帰ろう」という想いが心によぎった。

地方創生がうたわれるなか、特色を活かした街づくりに試行錯誤する自治体は多い。しかし、結局のところ、過去の栄光にすがろうとすることが少なくないようだが、発想の転換によって、大牟田のように、「今日のマイナスは明日のプラス」とし得るのである。ぜひ、斬新な切り口を見つけ、そして、まさしく「創生」の言葉のとおり、それぞれの地域で時代に合った新たな価値を生み出してほしいと切に願う。

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