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月刊 経団連 巻頭言 100年に1度の大転換の時代

泉谷直木 (いずみや なおき) 経団連審議員会副議長/アサヒグループホールディングス会長

近年の歴史を振り返ると、18世紀後半の蒸気機関の発明による機械化、19世紀後半の内燃機関の発明による大量生産化、そして、20世紀後半の情報機器の発明による情報化への転換など、世界は100年に1度大転換をしている。これらは、産業構造とともに社会構造を大きく転換させてきた。

19世紀の英国におけるラッダイト運動は、それまでの手工業の仕事がなくなることへの労働者の不安の爆発であった。しかしその後、生産性の向上と利益の還元によって中産階級の形成につながった。近年、ネオ・ラッダイト運動という言葉が聞かれる。テクノロジーの発達で雇用が奪われるので、過度な技術革新は控えるべきではないかとの主張である。

しかし、今や科学技術は、情報通信技術、遺伝子工学技術の発達により機械が機械を発明し、科学が人間の生死にまで入り込む時代を迎えている。21世紀中には、AIが人間の知能を超えるシンギュラリティに至るともいわれている。こうしたなかで、人間はどう生きていくことになるのかを真剣に考えねばならない。

格差や貧困の問題が提起されて久しい。英国の経済学者リチャード・レイヤードは、人間の幸福に影響を与える要素として、家族関係、家計の状況、雇用状況、コミュニティと友人、健康、個人の自由、個人の価値観の7つを挙げている。

産業構造の変革により供給が増えても、需要が生まれなければ経済は成り立たない。変革にはイノベーションとディスラプションが伴う。これを二者択一の対抗軸と考えず、併存可能と考えるべきであろう。そして広い視野を持ち、目指すべき社会について国民合意を形成していくことが大切だと思う。

Society 5.0は、中長期的な現実を直視し、全体最適の発想でわが国の新しい成長モデルを創造しようとするものである。これを含む政府の日本再興戦略が確実に実行され、多くの国民が抱く将来への不安を取り除き、未来創造への期待が溢れる社会に変革していくことが重要だと考えている。

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