1. トップ
  2. 月刊 経団連
  3. 巻頭言
  4. 消費の実感

月刊 経団連 巻頭言 消費の実感

石塚邦雄 (いしづか くにお) 経団連副会長/三越伊勢丹ホールディングス特別顧問

景気回復期間が戦後2番目を記録した。また、月例経済報告によれば、個人消費も緩やかではあるが回復している。しかし一方で、景気回復を実感できていないという声も耳にする。

数値と実感との差は何によるものだろうか。一般的には、成長が緩やかであることとか、賃金の伸びが鈍いということがその理由として挙げられている。そこで、小売業に携わる者としてこの差について考えてみた。

差の背景に、1つには、消費者の側では「モノを買うこと=消費」という意識がいまだ存在していることがあるのではないか。いくら通信費が増えていても、それが消費増になっているという意識はないのかもしれない。

2つ目に、ネットの拡大により消費購買の行動が変化し、モノと販売員を前にして「これを買います」という実体行為が激減しているということも考えられる。スマートフォンをタップすれば自宅に商品が届く。そういう簡単な動作は「買う=消費する」という感覚を薄めているのではないだろうか。

3つ目に、そもそも数値が実態と乖離していることが挙げられるのではないか。GDPの60%を占める個人消費の算出には、9000所帯を対象とする総務省の家計調査がベースとされ、最終的には生産・分配・支出という三面等価の原則からの推計値となっている。急速に増えている「CtoC取引」は消費に含まれていないし、通信費や医療費がいわゆるコト消費に取り込まれるなど、統計数値が必ずしも実態を反映していないことが実感との差になっているかもしれない。

GDP600兆円には個人消費の喚起が不可欠である。そのためには、可処分所得の増加、社会保障制度の見直しによる将来不安の払拭など、さまざまな視点からの施策が必要である。なかでも一番大事なのは、消費者と向き合う現場で、多様性から「パーソナル」、モノから「コト」、所有から「シェア」、リアルから「デジタル」と、急速にシフトする消費行動を的確にとらえ応えていくことで、消費マインドを上向かせ景気回復を実感してもらうことだ。それが消費の好循環と消費の拡大、そしてGDP600兆円達成につながっていく。

小売りの現場にいる者として、さらなる努力が必要と感じる。2年目を迎えるプレミアムフライデーの地道な継続も重要だと思う。

「2018年5月号」一覧はこちら

「巻頭言」一覧はこちら