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月刊 経団連 座談会・対談 欧州情勢と日欧経済関係

越智 仁
経団連ヨーロッパ地域委員長
三菱ケミカルホールディングス社長

早川 茂
経団連副会長、通商政策委員長
トヨタ自動車副会長

須網隆夫
早稲田大学大学院法務研究科教授/21世紀政策研究所「英国のEU離脱とEUの将来展望研究会」研究主幹

小林 健
経団連副会長
三菱商事会長

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須網隆夫(早稲田大学大学院法務研究科教授/21世紀政策研究所「英国のEU離脱とEUの将来展望研究会」研究主幹)
EUは、リーマンショックからギリシャ債務危機が発生した2009年ごろまでは、ほぼ安定的に推移してきた。もともとEUの加盟国には、EUの権限が強化されることで自国の主権が制限されることに反発する人たちが存在しているが、国際金融危機後、彼らの勢力が強くなり、これがEUの構造的な脆弱性となっている。日EU EPAについては、交渉の妥結を非常に高く評価している。韓EU FTAを下敷きに、よりハイレベルな内容となっている。SPAとセットで締結されれば、経済秩序だけでなく、政治秩序の再構築にも大きく貢献できるのではないか。

小林 健(経団連副会長/三菱商事会長)
欧州は貿易相手としてのみならず、国際政治・経済・安全保障面でも重要なパートナー。今年1月に訪問したバルト3国・東欧諸国では、西欧に対する強い憧憬とともに、西欧との経済格差から生まれる悲哀を目の当たりにした。EUの権限強化に対する各国国民の反発等の構造的問題が顕在化し、EUが曲がり角にきていることを懸念する。米中が競う世界経済に向き合うには、日本は民主主義・法治国家・自由貿易等の価値観を共有するEUをパートナーとし、国際秩序の維持を引き続きけん引していかなければならない。そうした観点からも、日EU EPAの締結は非常に大きな意味を持ち、またアジアでの自由経済圏の構築を考えるうえでもマイルストーンになる。

早川 茂(経団連副会長、通商政策委員長/トヨタ自動車副会長)
欧州の自動車マーケットは、リーマンショック後の2013年を底に少しずつ回復を続け、米国を上回るレベルに達している。英国のEU離脱は、英国に工場を持ち、欧州に広くサプライチェーンを構築している企業にとって、大きなダメージとなりかねない。ポピュリズムの台頭が懸念されるなか、昨年フランスでマクロン大統領が誕生、さらにドイツのメルケル首相も大連立で政権を維持したことで、欧州分裂は当面回避できた。これを追い風に国際舞台でも欧州の今後のリーダーシップに期待したい。自動車業界としては、環境や安全、とりわけ自動運転に関して新たなルール形成が進むなか、日EUがリーダー役を務めることを期待している。

越智 仁(経団連ヨーロッパ地域委員長/三菱ケミカルホールディングス社長)
欧州は環境問題に対する意識が高い。率先してさまざまな規制を導入していることから、今後、国際社会での発言力を強めていくだろう。英国のEU離脱に関して、日本の政府、経済界はともに迅速な対応を行った。今後の離脱交渉は、とりわけ英国にとって厳しいものとなるだろう。日EU EPAに関し経団連は、韓EU FTA交渉開始直後から早期締結に向け働きかけを続け、その成果がようやく実った。なかでも、ビジネスヨーロッパとの間で、2012年以降6年連続で開催している「日EU業界対話会合」は、交渉妥結に大きく貢献したと自負している。

久保田政一(司会:経団連事務総長)

  • ■ 欧州の政治・経済情勢
  • 欧州の重要性とEUの構造的問題への懸念
  • 欧州企業と連携して水素社会実現を目指す
  • 環境問題で欧州がイニシアティブを取る
  • 2010年以降に不安定化したEU
  • ■ 英国のEU離脱交渉の行方、欧州統合の行方
  • 英国国内の格差
    ~「どこでも派」と「どこかに派」の対立
  • 日本の政府、経済界の迅速な対応を評価する
  • サプライチェーンを分断される自動車産業のダメージは大きい
  • 離脱交渉の展開を注視し、英国・EU双方に働きかけていくべき
  • EUの将来を描くいくつかのシナリオ
  • 独自の動きを見せる中・東欧諸国に注目
  • ■ 日EU EPAの意義
  • 日欧がグローバルな自由貿易体制をリードしていく
  • 国際通商秩序を再構築していく第一歩になる
  • 昨年のB7ローマ・サミットで日本の意思を伝えた
  • 経団連の10年以上にわたる働きかけが実を結んだ
  • ■ 日欧経済関係の発展の方向性
  • 「ビルの谷間のおいしいラーメン店」を目指せ
  • 国際的なルールづくりにおける日仏のリーダーシップに期待
  • 日独間の協力関係を日欧間に広げていく
  • 日欧経済の相互補完性を通商投資の発展につなげてほしい

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