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月刊 経団連 巻頭言 文理融合のすすめ(リベラルアーツとイノベーション)

斎藤 保 (さいとう たもつ) 経団連審議員会副議長/IHI会長

日本のイノベーションを生み出す力が停滞しているといわれて久しい。2018年版の『科学技術白書』においても、イノベーションを生み出す基盤的な力が急激に弱まっていることが指摘されている。昨今の世界情勢を見ても、課題は多様化・複雑化しており、イノベーションに対する障壁がより高くなっていることは間違いないだろう。

イノベーションは、シュンペーターの時代からさまざまな定義付けがされてきているが、私自身は「既存知を組み合わせて新たな社会的、経済的価値を生み出すこと」と定義したい。しかし、複雑・多様な課題を包含する現代社会において、企業内の専門技術・知識の組み合わせだけでイノベーションを起こすことは難しい。そこには異分野の技術や発想と既存知の融合、加えて幅広い感性と応用力に裏打ちされたリーダーシップが求められる。すなわち多面的な問いの力の基となる、リベラルアーツを身に付けることが重要なのである。

リベラルアーツは、欧米では普遍的な教育概念として連綿と受け継がれてきた。日本でも、学問的区分にとらわれず、多面的な知識と発想を習得させる文理融合の教育概念が、大学教育に取り入れられてきたが、その歴史は浅い。産学官一体となり、リベラルアーツ人材の育成に力を入れていくべきである。リベラルアーツに加え三現主義(現場・現物・現実)を徹底し、問いの力を磨けば、より大局観を持って社会的な課題解決ができる人材を輩出できる。

こうした人材を育成することで、地球温暖化をはじめとするグローバルな環境問題や局所的に増加する災害など、ある特定の分野や専門だけでは解決が望めない複雑な社会的課題も解決できるであろう。

現在の日本を覆う閉塞感をイノベーションを通して払拭し、日本がグローバル経済のなかでその存在感を再び確かなものとしていくためにも、文理融合をすすめたい。

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