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月刊 経団連 巻頭言 「サステナビリティ」の変容と社会経済変革

平野 信行 (ひらの のぶゆき) 経団連副会長/三菱UFJ銀行特別顧問

パンデミックに続くロシアのウクライナ侵略は、中国の台頭や格差の拡大に伴う社会的分断の進行によって揺らぎ始めていた冷戦後の世界秩序に終止符を打つものとなるだろう。今や、「サステナビリティ」は気候変動への対応だけでなく、社会・経済・安全保障を含む様々な領域で世界をどう再構築していくのかという多元的なミッションに変容しつつある。

我が国は、バブル経済崩壊以来の長期停滞と人口減少の進行が国家と社会の基盤を侵食する中で、こうした難題に立ち向かわなければならない。世の中が大きく変わる中で高度成長期に築かれた構造に安住し続けた結果が、今日の不都合な現実である。それを冷徹に直視し、困難を乗り越え持続可能な社会経済システムを構築し直すことが、我々の将来世代に対する責務だろう。

長期停滞の主因が新たな価値を生み出すための投資の絶対的な不足と事業変革への強い意志の欠如にあったとすれば、我々民間セクターがなすべきことは明らかである。成長エンジンであるGXとDXを軸にスタートアップとの共創を通じてイノベーションを創出するための意欲的な投資や、教育・エンゲージメント・報酬改善など人への投資は、新たなビジネスを生み出すとともに社会にダイナミズムをもたらし、ポテンシャルの高い分野への労働移動も誘発するだろう。

一方、政府は、持続可能な国家・社会のビジョンをしっかりと指し示したうえで、第1に、民の活力を解き放つ規制改革、民による未来志向のリスクテイクを後押しするための重点投資と仕掛け作り、第2に、社会保障においては、金銭給付型から参画促進型へ・高齢者偏重から将来世代重視へのシフト、少子化対策における家族政策の重視、第3に、財政における非効率性の排除と施策のスクラップアンドビルドによる資源配分の全体最適化に取り組むべきである。

これらは、いずれも国民生活・産業構造・地域社会全般に亘る変革や転換を迫るものであるだけに強いリーダーシップが求められる。しかし、我々に残された時間は多くない。世界がパラダイムシフトを迎えた今だからこそ、成長とフェアネスが両立するサステイナブルな社会経済を大胆に構想し、その実現に取り組まなければならない。折しも政治の世界では参議院選挙が終わり長期的利益や共有すべき価値観に基づいた議論が可能な舞台が整った。我々経済界も、そうした視点に立って、新たな価値創造に向けて民の力を発揮する時が来たのではないか。

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