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月刊 経団連 巻頭言 日本の産業競争力を強化するために

垣内 威彦 (かきうち たけひこ) 経団連副会長/三菱商事会長

世界各国はインフレをいかに抑え込むかの対応に追われているが、今後もエネルギーや食料価格が乱高下することを所与として考えなくてはならない。加えて、地政学情勢により迫られるサプライチェーンの再構築、脱炭素に向けたエネルギー供給のあり方など、複雑に絡み合った諸課題にも直面している。今月、サンフランシスコでAPEC首脳会議が開催されるが、米中対立や脱炭素への向き合い方など、世界を安定に導くリーダーシップの発揮に期待したい。

翻って日本である。過去の貿易黒字大国も、2022年度には貿易赤字が18兆円に拡大するまでに至った。「日本はどのような国になりたいのか」の問いに対する答えが、製造技術立国としてのプレゼンス維持を目指すということであれば、カーボンニュートラル(CN)電源をベースとした先端産業の日本への回帰と、死活的に重要なアジアとのアライアンス強化の両立を目指す必要がある。

そのためには、第1に、国際競争力のあるCN電源(再生可能エネルギー・原子力)の整備と、全国で効率的に電力融通させるための系統連系の強化に向けた取り組みに、官民の力を結集すべきである。第2に、半導体等に関連した先端産業分野の生産拠点として世界から注目されつつあるモメンタムを最大限に活かすためのビジネス環境の総点検が必要だ。電力に限らず、DXも活用して物流等のサービス効率を高める。第3に、産学連携によりイノベーションを推進する。大学が研究、産業界が投資・社会実装と分業する時代ではもはやなく、研究から社会実装まで、産学連携で持続的成長を実現する。そのためにも、大学の役割の再認識・大学の再興が必要だ。

加えて、アジア諸国の多くは「成長とCNの両立」の解を模索中だ。アジアのエネルギートランジションに貢献し、日本とアジアの市場一体化を強固なものとすべきであろう。日本がアジアで強みを持つ分野において、さらに踏み込んだ協調領域の設定も含めて大胆な戦略を描けるかが、アジアとの共存共栄関係を維持・発展させていくうえでの試金石となる。

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