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月刊 経団連 巻頭言 心にダイバーシティを

魚谷 雅彦 (うおたに まさひこ) 経団連審議員会副議長/資生堂会長

私は、経団連ダイバーシティ推進委員長や30% Club Japanのチェアとして、多くの経営者や人事担当役員の方々と人財の多様化や組織文化の改革に取り組んでいる。世界第3位(2022年実績)の経済大国日本が、ジェンダーギャップインデックスでは125位。経済・政治分野でのこの実情が「失われた30年」という厳しい現実を生んだ一因ではないか、と考えている。

日本企業が世界を席巻していた1981年に、私はニューヨークのコロンビア大学のビジネススクールで学んだが、経営者を志すクラスの3分の1は女性で、35の国から学生が来ている多様性とそのエネルギーに圧倒された。それから40年がたち、日本でようやく真剣な議論や活動が始まっている。経団連加盟企業225社が2030年に役員の30%を女性にすることを宣言しているのは、前向きな動きとはいえる。

しかし、数値目標の実現はあくまで方法であり、目的でないことは明らかである。そもそもなぜ多様性が必要なのか、なぜ多様性が企業価値を生むのか。私は、アップル社のスティーブ・ジョブズが1997年に掲げた「Think Different」がその本質だと思う。これまでの成功体験に基づく延長線上で考えるのではなく、他者とは異なる新たな視点・着眼点や発想により、イノベーティブな技術や商品を生み出す。同質的で予定調和の「面白くない」ものは受け入れない。現場・現実を知る若者が発言できにくい組織ヒエラルキーを壊す。「出る杭」を称賛する。そして「違い」にリスペクトを示し、ディベートの際の化学反応から新たなものを生み出していく。これこそ、ダイバーシティが目指すものではないだろうか。

さて、皆さんの心の中にこれを促進する「心のダイバーシティ」はどれだけあるだろうか。実現するには、性別・国籍・年齢・障害・職業経験など多種多様なバックグラウンドを持つ「人」が能動的に参画する環境が必須だ。これはまさに、われわれ経営者の想いや決意により可能となるものである。「Think Different」は「Different Mind」により可能となる。

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