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月刊 経団連 巻頭言 マイナンバー制度のスタートを控えて

村瀬治男 (むらせ はるお) 経団連審議員会副議長/キヤノンマーケティングジャパン会長

「社会保障と税の共通番号制度」のスタートまで一年を切った。紆余曲折があったなか、2013年5月の通常国会において番号法および関連法が成立した後も、さまざまな角度から議論が続いている。その論点は、制度の目的および実現手段、受益者とそのメリット・デメリット、多額の税金投入に対する費用対効果、プライバシーの保護、そしてこれらの意思決定プロセス、といういくつかに集約される。「賛成か反対か」ということ以前に、「よく知らないという国民が多いことがそもそもの問題である」との声もあり、制度に対する全体像の理解促進が求められる。

この議論の経緯を見るにつけ、私のなかに一つの類似形が頭をもたげる。それはほかでもない、われわれ企業におけるIT化プロセスの構図である。時計の針を戻せば、「Y2K」「連結会計」「IFRS」といったグローバル対応などと、多額の投資を要する出来事が今日も続いている。財務会計の分野に限らず、「CRM」や「SNS」などマーケティングの面でも大きな技術的進展が見られる。

クラウド化の波が押し寄せる以前は、大胆に一言で表せば「継ぎはぎのIT」であったことは否めない。そもそも業務自体が継ぎはぎで、それに合わせたITシステムもそうならざるを得なかった。本来そこに求められていたのは、ワークフローから組み直す作業であり、BPR(業務プロセス改革)そのものであると言ってもよい。クラウドやオープン化が主流となった今、BPRを伴うIT化が企業の生産性や提供価値の優劣を付けることになる。

この類比からあらためて番号制度の行方を考えてみると、国民の利益にかない、社会全体の生産性向上に資する社会システムのあり方、そして実現のロードマップを議論することに、残された時間を割くべきであろう。もちろん2016年1月でタイムアップではない。スタートした後も不具合があれば軌道修正すればよい。国民の知恵と不断の努力の積み重ねがより良い社会システムを築くのである。政府および政策担当者には国民の利益を第一にした制度設計を切に願いたい。そして、その推進に真正面から取り組むのがわれわれ企業としての責務であろう。

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