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月刊 経団連 巻頭言 企業の役割を問い直す

國部 毅 (くにべ たけし) 経団連副会長/三井住友フィナンシャルグループ社長

1972年にローマクラブが発表した「成長の限界」は、自然資源の制約や環境汚染の増大等により、成長の局面は今後100年続くことはできないとの警鐘を鳴らした。それから約半世紀がたとうとするなか、現下のグローバル経済では、ヒトやモノ、資本が大量かつ瞬時に移動し、国や企業が相互の結び付きを一層強める一方で、成長が生み出す負の側面は、格差拡大や生物多様性への影響、自然災害など新たな課題を含め、地球規模で拡大・拡散し続けている。

こうした課題の克服には、各国政府や国際機関の規制対応だけでは限界があるうえ、世界の人口が75億人を超える現在、これまでと同じ経済社会システムのままでは、持続的で安定した経済社会の維持・発展は難しい。また、金融市場における短期主義(ショートターミズム)や投機的な動きの広がりは、経済の不安定化や、所得格差の拡大を助長する側面もあり、中長期的な視点から息の長い事業に投資し、次世代により豊かな社会を残すという、資本主義が本来持つ機能が十分に発揮されにくい状況にある。

こうした現状に対し、企業はどう向き合い、どのような役割を果たすべきなのか。

まずは、環境や社会問題等への対応は、必要な企業行動の一部であり、それが中長期的な企業価値や利益に影響を与えるだけでなく、企業行動の変化を通じて社会全体の利益の向上にもつながるとの意識を一層強めることだ。

さらに、こうした企業行動を通じて、市場メカニズムそのもののなかに、持続可能な経済社会を構築する仕組みを組み込んでいく必要がある。すなわち、SDGs(持続可能な開発目標)達成に向けて、企業が主体的に自身の存在意義と潜在的な役割を問い直し、持続可能性に対する具体的な行動を起こすこと、そして、人々や政府、社会全体にも、持続可能性に対する意識や行動が浸透していくよう率先して働きかけていくことだ。

ローマクラブの「成長の限界」で示された「世界というシステムの限界と、それが人口と人間活動に対して課す制約についての見通し」は、企業が「社会に対する責任を積極的に引き受ける」ことで、様変わりすると考える。

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