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月刊 経団連 巻頭言 次世代への責任とおもい

畑中好彦 (はたなか よしひこ) 経団連審議員会副議長/アステラス製薬会長

医師・公衆衛生学者ハンス・ロスリングは、著書『FACTFULNESS』において、事実に基づいた世界の見方を身に付けることの重要性を提唱している。正しい判断をするには、悲観的にとらえがちな本能を抑え、事実を正確に理解する習慣を身に付ける必要がある。

日本は現在、世界最高水準の医療を提供し、世界トップクラスの長寿社会を実現している。一方で、医療費の増大などさまざまな課題に直面しており、これらの課題を解決するための社会保障制度改革が進められている。社会保障制度改革の実現には、国民一人ひとりが給付と費用負担の構造について正しく理解し、当事者として社会保障の未来を考えていくことが重要である。このためには、国民の理解醸成と同時に、教育の過程においてもその理念とともに正しい知識を身に付けるような環境整備が求められる。

また、医療保険制度においては、「国民皆保険の維持」と「イノベーションの推進」の両立を大前提として、医療費の最適な配分に取り組む必要がある。Society 5.0時代のヘルスケアは、医療から未病ケア・予防へ、画一的な治療から個別化医療へとその重心を移し、個人が自らのデータを活用し、主体的に健康を管理するようになる。このような社会への変化は、健康寿命の延伸、また医療費の最適な配分にも資することが期待される。

Society 5.0時代のヘルスケアの実現には、健康医療データベースの活用が鍵となる。データ活用についても、データを提供する国民がそれによって得られる恩恵を正しく理解することが不可欠であり、企業は成功事例を示し、国民の理解醸成を後押しすることが求められる。当社でも、デジタルトランスフォーメーションの取り組みを活性化すべくビッグデータを扱う機能を立ち上げ、さまざまなバリューチェーンにおいてデータ活用を進めている。

時代の変革に伴い、業界の垣根を越えた協業が始まっており、これまで培ってきた強みと異分野の技術・知見を融合したイノベーションが生み出されている。直面する課題を悲観的にとらえるのではなく、イノベーションを絶えず創出・還元することで、明るい未来を切り拓いていきたい。

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