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月刊 経団連 違いにワクワクすることが原動力

JOINnovator! ─DE&Iを楽しむイノベーターたち
川﨑 レナ
アース・ガーディアンズ・ジャパン代表
ユーグレナ2代目CFO(Chief Future Officer:最高未来責任者)
Rena Kawasaki
2005年生まれ。大阪府出身。
2020年に、国際的な若者の組織であるアース・ガーディアンズの日本支部を創設し、2022年International Youth Councilに就任。2020年10月から2022年6月までユーグレナの2代目CFO(Chief Future Officer:最高未来責任者)を務める。
2022年「国際子ども平和賞」を日本人で初めて受賞。同年、グーグル元CEOのRiseプログラムにも選出されている。
(紙面PDF版はこちら

私は、アース・ガーディアンズ・ジャパンというNPOの代表をしています。普段は若者と社会とをつなげる活動をしています。

経験をもとに“提供する立場”へ

アース・ガーディアンズ・ジャパンは、メンバーが取り組みたいことを共に全力で実現していく団体で、小学生から高校生までの若者が所属しています。私は小さい時から学校や地域でいろいろな活動を経験する機会に恵まれていたので、自分も何か提供する側になりたいとずっと思っていました。そうした中、米国のメディア会社でインターンをしていた時に、パネルディスカッションのモデレーターを務める機会がありました。その際、私より少し年上のアース・ガーディアンズのメンバーが企業や行政、政治に関わる提言を行う姿を見て、衝撃を受け、日本にも若者主体の組織があればと、2020年にアース・ガーディアンズ・ジャパンを設立しました。

国際NPOであるアース・ガーディアンズは、世界各国で活動を展開しているので、海外支部の人たちと多様性や人種差別に関わる話をしたり、現地がどのような状況なのかを聞いたりすることができます。国によって、アクティビズムの形や若者と社会のつながりに対する考え方が異なるのが興味深いところです。例えば、インドネシアでは、「地域の子どもたちと一緒に木を植える活動をした」「地元の人たちの畑を一緒に耕した」と発言する人もいれば、「政府に提言をした」という人もいます。ほかにも、「先住民族の子どもたちのアクティビズムのあり方についてワークショップを行った」など、日本での日常生活とは異なる情報交換がとても刺激になります。

「失敗してもよい環境」が育んだもの

私は2020年からユーグレナの2代目CFO(Chief Future Officer:最高未来責任者)を務めました。同社は、未来を変えていくためには、未来を生きる当事者である世代が経営に参加していくべき、との考え方のもと、18歳以下限定でCFOと、CFOと共に活動するフューチャーサミットメンバーを公募しています。公募で集まったメンバーは全員初対面でしたが、年齢に関係なくファーストネームで呼ぶ、敬語は使わないというルールを最初に決めて、発言しやすい雰囲気をつくりました。何げない会話の中からインスピレーションを得ることもあって、そういった空気感を一緒につくっていけたのは良い経験でした。

メンバーは医療、哲学、環境などそれぞれ興味のある分野が異なっていたので、良い意味で意見をぶつけ合うことができました。もちろん意見がぶつかったり、考えを否定されたりするのは気持ちの良いものではありませんでしたが、最終的には、遠慮なく指摘をし合える関係性の大切さを実感することができました。

同社の具体的な施策を検討するにあたっては、テーマ設定をしたうえでアイデアを出していきました。「Well-Being Innovation」というテーマはかなり模索しながら決めました。やりがいや情熱をもって、イノベーションを生むには、ちょっと突拍子もないアイデアも気軽に言えるような環境を社内でつくることを目標としました。メンバーの関心分野は異なっても、これがみんなの共通点ではないかと、ディスカッションから抽出していった目標です。

自分の欲しい未来をかたちづくる

ディスカッションを何度も行う中で、メンバー全員の「聞く力」が育っていったと思います。意見を聞いて、それを自分の中できちんと理解したうえで考えを述べて、そこから共通点を探していくことがとても大事だと感じました。またこの実感を持てたのは、会社から「何回でも失敗してよい」と言われたことが大きかったと思います。長い目で見てくれる、サポートしてもらえるという安心感から、多くの失敗を重ねることができたと思います。はじめは自分の経験から何ができるかをお互いにアピールし合うようなディスカッションでしたが、そこから抜け出して、他の人の良い部分を引き出すことができたときが一番良い結果につながるという経験ができました。

そうしたディスカッションを経て“ペアレンツ制度”という新しいアイデアが生まれました。新しく入社した仲間に対して、部署や年齢、役職の垣根を越えていわば“親代わり”のメンターとなるメンバーを2人付ける取り組みで、この導入を会社に提言しました。新しい仲間に早く会社に慣れて活躍してもらうと同時に、会社の中で頼れる人をつくってささいな不安やアイデアを話せるようにして心理的安全性を上げ、ファミリーツリーのような輪を社内の他部署にも広げていければよいなという考えが発端です。学生だからこそ、自分が会社に入ったらこうしてもらいたいという発想があったのだといえます。

グレーゾーンの中から何を生み出せるか

アース・ガーディアンズ・ジャパンは、学校などの枠組みでもなく、誰かに言われて運営している団体でもありません。みんなが毎週ミーティングをしたときに楽しいと感じてもらえることがチーム全体の原動力になっていると思います。ワクワクする力はとても大切で、1人でも楽しくないと感じていれば悲しいことですし、そうなるとみんなが同じ情熱を持って進んでいくことができません。

また、意見を交わす場においては、自分だけが“正解”なのではなくて、それぞれの人が持っている自分の“正解”をまとめてすてきなアイデアにする、というスキルセットが必要だと思います。そのためにはまず、聞く力が必要で、聞く力を持っている人はファシリテーターとしても優秀だと感じました。

全員が異なる意見を持っているのが普通で、同じ意見で一致するわけではない。自分の意見を持っているのはすてきなことで、だからこそ、真ん中のグレーゾーンの中で何ができるかがすごく大切だということをメンバーのみんなが教えてくれました。そのグレーゾーンの中から、いかにワクワクするものを出せるかが勝負だと思います。

いろいろな人がいるからワクワクする

幼稚園の時に習った「みんな違ってみんないい」という言葉が、DE&Iを表現するものとして一番しっくりときます。社会の中で自分と全く同じ経験をする人はいませんし、全員が同じことを言う世の中では楽しくありません。私自身も学びがないと思います。着ている服や考えていることはそれぞれ違うし、国籍が違うこともある。だけど、いろいろな人と一緒にいる世の中だからこそ楽しいと考えられるのがDE&Iなのではないかと思います。

私は2022年に「国際子ども平和賞」を受賞しましたが、自分が何か特別なことをしたとは思っていません。最近は、人と人との対立をあおるような風潮がありますが、大人対子どもというような対立軸で考えるのではなく、何が一緒にできるか、何をお互いに学べるか、という視点で考えるのが私自身はとても好きです。それを自分の団体や別のグループの人たちと行えてきたことが評価され、受賞につながったのだと思っています。

ありきたりかもしれませんが、いろいろな人に支えられて自分はいるということを小さい時から感じているので、それを絶対に忘れないようにしたいです。そして、その中で自分がワクワクすることを一緒に共有していきたいと思います。

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