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月刊 経団連  巻頭言 さらなる女性活躍推進を目指して

石井 敬太 (いしい けいた) 経団連審議員会副議長/伊藤忠商事社長

2025年の夏季フォーラムでは、「人口減少下でも輝く日本経済・社会の未来図」を統一テーマとして活発な議論が交わされた。私も参加した分科会の中で、主に女性活躍推進の観点から労働生産性向上に向けた伊藤忠商事の取り組みを紹介させていただいた。

当社が女性活躍推進に取り組み始めたのは2003年、まずは新卒総合職採用における女性比率の引き上げや、全部署への配属などに着手した。しかし、当時は対面業界での女性活用が進んでいなかったほか、前例のない女性総合職の育成プランや支援策が社員の実情やニーズと乖離してしまい、順調な滑り出しとはならなかった。

転機となったのは2010年に始めた全社員対象の「働き方改革」だ。特に20時以降の勤務を原則禁止にするなどの「朝型勤務制度」の導入は、社員個々人の時間の使い方や各職場の業務プロセスを根本から見直すきっかけとなった。また、就業スタイルの多様化に合わせ、育児支援策や海外駐在時のケア、男性社員の育休取得など、女性活躍支援策のメニューを広げ、積極的な利用を促した。残業時間の減少や労働生産性の向上に加えて、当社の女性社員の出生率が全国平均を大きく上回る水準にまで上昇したことは、こうした取り組みの成果と捉えている。

当社が20年以上の試行錯誤から学んだのは、全社一律の制度では人も会社も動かせないということだ。社員一人ひとりのニーズにきめ細かく対応できる柔軟な仕組みと運用ルールがあってはじめて利用が増える。制度は一度作ったらそれで終わりではなく、日々現場の声に耳を傾け、個々の事情に寄り添いながら絶えず磨き続けていくことが大切だ。

性別などに関係なく誰もが活き活きと働き、新たなイノベーション創出の源となって日本全体の付加価値増大に貢献する。教科書通りにいかないことは当社でも経験済みだ。日本がこれからも輝き続けるためには、今こそ経済界を挙げて、多様な人材の活躍推進に本腰を据えて取り組んでいくことが肝要ではないか。

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